サブカル日記

本、映画、喫茶店、ファッション等々・・・いわゆるサブカルを探報し続けます。

#2 『穴』小山田浩子

今日は、小山田浩子の『穴』。これも芥川賞を受賞した作品。
 
面白さ 3/10
 
タイトルに惹かれて購入。だけども内容は微妙だった。いくつか、僕が気に入らなかった点を挙げれば、文章の雰囲気と、文学的に重要な部分を未解決のままにしていることの二点だ。もちろん良かった点もあるけど、いずれにせよ、僕にはハマらない作品だった。
 
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あらすじ
 
夫の母親が管理する、誰も住んでいない家に引っ越してきた夫婦。この妻が主人公。田舎の方に引っ越してきたので、周りに働く場所も、買い物にいく場所もない。
 
そんなこんなである日彼女は土手を散歩していると、「黒い獣」を見つける。彼女はこの「黒い獣」が気になり、追いかけるのであるが、その途中うっかり穴に落ちてしまう。高さは胸の高さくらい。すると近所のおばさんが彼女を見つけ、引き上げてくれる。
 
また別の日、彼女はまたあの「黒い獣」を見かけ、追いかける。すると家の裏手で、夫の兄を名乗る人物とでくわす。彼がこの家の裏手の建物にどうやら住んでいるらしい。半信半疑に思いつつ、主人公はこの兄とあれやこれや話をする。
 
その後、この家に住んでいた祖父が亡くなり、その葬式を行う。幾人もの人がこの祖父の下を訪れるのであるが、多くが誰かわからない。
 
そして最終場面、主人公がコンビニの面接を受け、暑い夏の道を帰るところで話は終わる。
 
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解釈
 
ざっと話の要点を書き出したが、改めてみるとよくわからない話である笑
でもいくつか、大事なポイントを見つけた。1つ目は「本当の現実」、二つ目は「獣や穴の意味」。
 
・「本当の現実」
 
この作品は、夏の間の話なんだけれども、読んでいるとものすごく、あの夏の太陽がさんさんと輝く風景が思い浮かぶ。そしてこの「現実の細やかな描写」が一つの大事なポイントなんだと思う。
 
というのも、主人公が土手を歩いて穴に落ちてしまうところだったり、主人公が目にする風景が描写される箇所でしばしば、ありえないくらい世界が細密に描写される。つまり、普段はうっかり見過ごしている「現実の本当の姿」が描写されているともいえる。
 
例えば、道端に生えている雑草も、よく見ればかなりの種類の数の草花からなり、またその中には虫が(この虫もいくつもの種類がいる)住んでいるかもしれない。僕たちは普段、多くのものをのっぺりと平にして世界を眺めてしまっているともいえる。でも実は世界はもっと細やかな姿でそこにある。このことが一つのテーマになっていると思う。
 
・「獣や穴の意味」
 
今見た「本当の現実」という路線であのよくわからない「黒い獣」のことを考えてみると、ちょっとだけこの作品がわかるかもしれない。
 
主人公は黒い獣を追いかけて、穴に落ちた。そして現実の細やかなあり方に目がいく。また別の場所では、この獣を追いかけることで怪しい「義兄」に出会う。(この義兄に関しては、姑も夫も何も話してくれていない)穴も義兄も普段は見えなかったが、この黒い獣を追いかけると現れる。さっき見た「現実の本当の姿」が、普段見えないのと同様に、この二つも普段も見えない。つまり、「現実の本当の姿の比喩」としてこの二つは描かれているのだと思う。そしてこの黒い獣は、ふと僕たちにそれを気づかせる、よくわからないきっかけのようなものだろうか。
 
これに関係するようなことが、作中でも述べられていた。少し違うアプローチかもしれないが、行っていることは同じく、本当の姿と、僕たちが平板に眺めてしまうことである。
 
「検索すれば、恐らく膨大な情報が出てくるだろう。しかし、出てくるであろうその情報のどれも、この動物のことを示しはしないような気がした。」
 
「基本的にみんな見ないんですよ、見たくないものは見ない。お嫁さんだって見てないものはたくさんある。」
 
「しかし、穴に落ちるまでのアリスが見ていたのは実はただのウサギなんだな。[・・・]しかし、穴に落ちてからはそうじゃない。いわば兎は一人格を持った労働者だ。」
 
これらの言葉に共通するのは、僕たちが見ている世界と、僕たちが見たくない世界があるということだ。インターネットには、あるものを説明する膨大な言葉に溢れている。しかし、そのあるものを見たときに僕たちが感じる個別的なものは含まれていない。また、土手の草花を「草花」や「雑草」という言葉で一括りにまとめてしまうように、世界を僕たちは平板にしてしまっている。このどちらの事態にも共通することは僕たちがいつも、「現実の本当の姿」を覆い隠してしまっている、ということだ。
 
しかし、我々が見ている虚構の世界は、そんなに堅牢なものでもないようだ。アリスがそれまで「兎」としてみてたものが、穴に落ちると一人格を備えたものに変わってしまうように、主人公が穴に落ちると世界の細密な姿に改めて気づく。ふとしたきっかけで、僕たちが持つ「みたくないものはみない」と言うスタンスは崩れて、綻びが見える。
 
そしてこの綻びこそが、あの穴であり、義兄の存在なんだろうと僕は解釈している。現実を覆い隠す僕たちの世界への眼差しと、その裏側にある細密な世界。これを、穴や獣、義兄といった存在が象徴しているのだろう。
 
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感想
 
改めて感想を述べると、僕はあまり好きじゃなかった。文章があまり歯切れが良くないというか、なんだか読んでて気持ちよくなかった。それと結局「僕たちがみていない本当の世界」がまぼろしとか、幽霊とかいった言葉に回収されちゃうことが読んでいてがっかりした。日常見ている世界が実は非常に細やかなものである、そのずれみたいのが一瞬はピックアップされていたが、その日常のずれを風景描写という形で描くところはまあいいけども、その世界をうまく描くことなく、いわゆるまぼろしという形で片付けてしまったのがつまらない。連れてかれたのに、入り口までって感じ。入れよって思う。
 
結局、本当の意味で穴はあまりひらけていない。
 
言葉で表現できない世界を結局「まぼろし」という形で回収してしまった。この穴を見つけたんだったら、その穴をもっと進んで欲しかった。そこに文学の面白さがあると思う。
 
でも、風景の描写は本当に良いと思う。夏が自分の周りに立ち上るように感じた。